ピリカショートストーリー #8
もたもたしてる間に10月になってしまっていますが…。
うだるような暑い夏の一コマです(*^^*)
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『夢を繋いで』
今日も暑い!
八月ももうすぐ終わるというのに、弱まること無く照り付ける太陽。
中途半端なにわか雨のせいで湿度も高い。
まったくもって外回りには不向きな季節である。
取引先の部長との約束は午後3時。
まだ余裕があるので、僕は公園で少し休憩する事にした。
缶コーヒーを買って木陰のベンチに座ると、グラウンドでは少年達が野球をしているのが見える。
―――懐かしいなぁ。
甲子園、そしてプロを目指してた頃を思い出す。
あの頃はあんなにもがむしゃらになれたのになぁ。
ふと視線を逸らすとゴミ箱があり、
そのまわりには空き缶が散乱していた。
「よぉし!」
僕はそれらを拾い集め、腕まくりをして構えた。
「ピッチャー振りかぶって~!!第一球、投げました!」
…カランコロン…………
っんだよ 四年でこんなに鈍るもんか?
「気を取り直して~、第二球、投げました!」
…………コンコロコン……
┐(´-`)┌ダメだこりゃ、素直に捨てよ。
しかしまぁゴミ箱があるのに、よくもこれだけ散らかせるものだ。
最後の一つを拾い上げた時
「あぶなーい!!!!」
振り返ると高く上がったファウルボールが、僕目掛けて飛んできた。
「よっしゃ!まかせろ!」
僕は張り切って構えたが、ボールは見事に受け損ね、珍プレー大賞みたいに頭でボヨヨーンと跳ねて飛んで行った。
転がるボールは池にポチャリ。
「ご、ごめんな💦お、お兄ちゃんが取ってくるな!」
さすがに責任を感じたので、革靴と靴下を脱ぎ、スーツのズボンをまくしあげボールを取りに池に入った。
「はい♪」
自分が受け損ねたのは棚上げ。取ってやったぞとばかりに笑顔でボールを手渡す。
と、その時。
カラーンカラーンカラーンと公園の鐘の音。
「( ゚д゚)ハッ! 今何時!?」
「あれは、3時の鐘です。」
やっべー!
びしょ濡れのまま靴下と革靴を履き、もつれる足で必死に部長の元へ急いだ。
厳しいことで有名で、時間にルーズなのが何より嫌いな部長だ。
息も絶え絶え、待ち合わせの喫茶店に辿り着きドアを開ける。
「お、遅れて申し訳ありません!」
怒鳴りつけられると思った僕に向けられた視線は………
( ゚д゚)ポカーン
「何、その格好………。」
部長の目の前には、両足まくしあげたとんでもない格好の僕。
「いや、あの、実は…」と、言いかけて大事な事に気が付いた。
( ゚д゚) ハッ! 鞄!! しょ、書類がない!
「すぐ戻ります!!!!」
僕はまたもつれる足で、慌てて公園へ引き返した。
( ゚д゚)ポカーン←部長
しかしベンチにも池のフェンスにも空き缶を集めたゴミ箱にも、どこにも鞄は見当たらない。
諦めかけたその時1枚の貼り紙が目に入った。
【お兄さんへ】
広げてみると、何やら暗号のような、←やらが書いてある。
【大きな木を右→】
【赤い屋根のお家を右→】
【三本目を左←】
【突き当たり右→】
なんだなんだ?
→の通りに進んで行くとその先には交番があった。
―――え?もしかして?
交番で鞄の事を尋ねると
「あぁ、届いてますよ(*^^*) さっき野球少年が持ってきてくれました。」
助かったーε-(´∀`*)ホッ
鞄の中身を確認すると
大事な書類と一緒に拙い文字で
【ボールを拾ってくれたお礼です。
ゴミも片付けてくれてありがとうございました!】
────へぇー(゚A゚) 今どきこんな子達もいるんだなぁ。日本の未来は明るいかも知れないな。
僕は鞄を受け取ると急いで部長の元へと戻った。
もちろんズボンの裾はきちんと戻して…(^_^;
喫茶店に着いて僕はひたすら謝った。
「まぁいい、今日は飲みたい気分だ。罰として今晩付き合え!」
会社には直帰する旨連絡を入れ部長と飲みに行く事になった。
僕は謝罪と今日出会った野球少年の事、昔野球を続けてプロを目指してた頃の話をした。
すると偶然にも部長も同じだった。
子供の頃から野球漬けだった事。昔は丸坊主が当たり前で女の子にモテなかった事。甲子園の予選で敗退して悔しくて荒れてしまった事。
部長はその夢を息子さんに託し、ついに今年甲子園出場を果たし、準決勝まで進んだのだそうだ。
僕達は意気投合して盛り上がり、契約の話も前向きに考えて貰える約束をした。
「帰りはタクシー呼ぶから一緒に乗ってくか?」
「いえ、僕は寄る所がありますので」
そう言って別れた後、僕は昼間の公園に戻った。
───あの時拾ったはずのゴミ箱のまわりには又たくさんの空き缶が。
全くマナーのなってない奴が多いったら┐(´д`)┌ヤレヤレ
僕はまたたくさんの空き缶を拾い集めて、昼間のようにゴミ箱と向かい合う。
「よっしゃ! ピッチャー振りかぶって~」
コロンコロン!!
「ストラーイク!」
なんだよ、酔っ払ってる方がコントロールいいじゃん!
全部をゴミ箱に投げ入れ、僕はグラウンドのフェンスに
貼り紙をした。
【カバンありがとう!
今度の日曜日、一緒にゴミ拾いと野球をしよう!】
僕の捨てきれなかった夢と、明るく綺麗な未来を、この子達ならきっと叶えてくれる。
そう僕は信じて、公園を後にした。