ピリカショートストーリー #9

残念な事に先日お亡くなりになられた市原悦子さん。彼女の温かく、時に軽快で惹きつける語り口に、子供の頃釘付けになっていました。

 

そんな市原悦子さん風に読んで下さいね(*^^*)

 

 

 

『ピリカ昔話』

 



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むかしむかしのことじゃった。


正直者のじいさまと、意地悪なじいさまがおって、2人は隣どうしの畑で野菜を作っておった。

 

どういう訳か、意地悪なじいさまの畑では大きくて立派な野菜が採れ、正直者のじいさまの畑では小さな野菜が少ししか採れなんだ。

 

 

今日も市場では意地悪なじいさまの野菜が飛ぶように売れ、正直者のじいさまの野菜は沢山売れ残ってしもうた。


市場からの帰り道、いつもの地蔵様の前を通りがかった。

 

 

意地悪なじいさまは

『地蔵様にくれてやる野菜なぞないわ!』

そう言いながら市場で買うたにぎり飯を頬張った。


『何じゃこのマズイにぎり飯は!』


一口かじっただけで、意地悪なじいさまは地蔵様の前へにぎり飯を放り投げよった。

 

後から来た正直者のじいさまは、地蔵様に
『売れ残りのこんまい野菜で申し訳なかぁ。んだども一生懸命作った美味しい野菜だべ。』


そう言って、一つずつ丁寧に地蔵様へ供えていった。

 

ふと見ると、地蔵様の周りにはゴミが散らばっておった。
『地蔵様、すまなんだなぁ』
正直者のじいさまは一つ一つ、ゴミを拾い集めた。
その中には意地悪なじいさまのほおり投げたにぎり飯も。


『…………なんと罰当たりな事を……』

 

この一部始終をコッソリ薄目を開けて見ていた地蔵様。

夜になると皆で話し合うた。


『なぁんで、あんなえぇじぃ様に立派な野菜が作れんで、あんな意地悪なじぃ様がえぇ野菜を作れるんじゃ?』

 

『どうもおかしい』

 

『ちと、畑まで行って見てこよう』


地蔵様達は月明かりの下、コッソリ畑を見に来た。
するとどうじゃろう。正直者のじいさまの畑には、何故か沢山のゴミが散らばっておった。


『たまげた!これはどうゆう事じゃ。 』

 

地蔵様が首を傾げておると、奥からから何やら人の気配が。


目を凝らすとそこにいるのは意地悪なじいさま。家からたんまりゴミを抱えて来ては、正直者のじいさまの畑へ撒きよった。

 

『なんて事を………。』
地蔵様達も開いた口が塞がらなんだ。

 

怒った地蔵様は、一晩の内に正直者のじいさまの畑のゴミをぜーーんぶ片付けて綺麗に耕した。

 

 

朝になり二人のじいさまは畑へやって来た。


『おやおや、今日は随分と畑が整っておる』

実は正直者のじいさまは、毎日畑のゴミを片付けるのが精一杯で、今までまともに畑を耕せておらんかった。

 

綺麗な畑を見て意地悪なじいさまは悔しがる。
『昨日あれだけゴミを撒いてやったのに、一晩の内に片付けるとは!』


その日の夜も、また次の日の夜もゴミは撒かれ、地蔵様がコッソリ片付け。。。

 

そして数日が経ったある朝、二人のじいさまは市場へ売りに行く野菜を採りにやってきた。
見るとどちらの畑にも大きくて立派な野菜がわんさか。

 

沢山の野菜を市場に並べたじいさま達じゃったが、今日は不思議な事に正直者のじいさまの野菜だけが飛ぶように売れよった。

 

『なんでコイツの野菜ばっかり売れよるんじゃ!』

意地悪なじいさまはいらいらし始めた。

 

 

その時雨雲が近づき、2人の野菜にもパラパラと雨がかかりました。

 

 

するとどうでしょう。

 

 

あんなに立派だった意地悪なじいさまの野菜は、みるみる溶けて、そこに並んでいるのはゴミの山。

 

『何じゃいこりゃー!!わしの野菜はどこいったんじゃー!』


おったまげた意地悪なじいさまは、大慌てで荷物をまとめて市場から逃げ帰っていった。

 

 

 

意地悪なじいさまは、いつもの地蔵様の所まで戻ると、朝方ばあ様に握ってもろうたにぎり飯の包みを開いた。

 


『うわぁ!真っ黒じゃ!腐っとる!』
意地悪なじいさまは一目散に走って帰って行ったとさ。

 

地蔵様は薄目を開けて、その様子をニヤリと笑って見ておった。

 

これはどうやら野菜もにぎり飯も地蔵様の仕業
のよう。

 

 

さてさて、全部の野菜を売りつくした正直者のじいさまは、地蔵様の前へ来ると丁寧に手をあわせ、

『有難いことに、今日はわしの野菜が皆綺麗に売れよった。代わりに今日はばぁ様の握ったにぎり飯を食うて下され』

 

そう言って小さく綺麗にむすばれたにぎり飯を一つ一つ供えて帰っていったとさ。

 

 

『全ての行いは自分に返ってくると言う事じゃ』

 

地蔵様は正直者のじいさまの後ろ姿を、にこにこと見送っておったそうな。




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