ピリカ ショートストーリー #6


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『シュウカツ』

 

私は毎朝、友達のカオリと大学までバスで通っている。

 

「な、見てみ?あの人またゴミ拾ってるで。
よっぽど暇なんちゃう?」


カオリが指さす先には、トング片手に空き缶やペットボトル、小さな吸殻を拾い集めるオジサンの姿があった。

カオリは少し見下したような言い方で続けた。


「よくいるやん?私いい人ですよーみたいな。」
「え?でも、いい人じゃなきゃでけへんよ

「そう?いい人のふりしてんちゃうの?良くいる偽善者ってやつ。」

「………………。そしたらカオリはいい人の『ふり』してゴミ拾える?」

「あー、あたしはムリムリムリムリ。めんどくさい。」
「でしょ?いい人の『ふり』でゴミ拾いなんて出来へんよ………」

 

何かにつけて「偽善」て言葉を使うカオリに少し腹が立った。


「あたしも拾ってみよっかなー。」
「やめときなってミホ。この就活のクソ忙しい時に。」
「まぁ………それも、そっか。」

 

私は何だか気になって、バスが離れ、オジサンが小さくなるまで見ていた。

 

 

 

面接帰りに駅前の公園に立ち寄った。
リクルートスーツを身に纏い、ジュースを飲みながら今後のスケジュールとにらめっこをしていると、知らないおじさんが声をかけてきた。

 

「君も就活生なのかい?」
「あ、はい!……君もって、まさかおじさんも?」
「あぁ。僕もシュウカツの真っ最中でね。」


「………リストラ…………ですか?」
「いやいや、そうじゃあないよ」

「あ!もしかして今流行りのエンディングノートとか書く『終活』ですか?」
「あはははは、君面白いね!僕はまだそんな歳じゃないよ。健康でピンピンしてるしね!」
「そ、そうですよね、失礼しました。」

 

「拾う活動で『拾活』だよ」


「へぇ……………拾う活動でシュウカ………」

ぶはーーーーーっ!!!

 

「うわー!!!」

私は一口飲みかけたジュースをおじさん目掛けて吹き出した。

「ご!ごめんなさい!あの、まだ口に入れたばっかで汚くないんで!!」
「あははははは!君ホントに面白いね。吉本興業とかに就職したらいいのに」

 

 

シュウカツ=拾活

 

この一言が面白かったのではない。
何で気付かんかったんやろ。
おじさんはいつもバスで見かける、ゴミ拾いのオジサンだった。


手にはいつものトングとゴミ袋。

 

「………へ、へぇ。なるほど、『拾活』……ですね」
「あははははは!お互い就活(拾活)頑張ろうね」


おじさんはよほどツボにハマったのか、ジュースまみれのまま「あははははは!」と笑いながらゴミを拾って帰っていった。

 

 

 

 

今日はカオリと一緒にH社の面接。
周りの友達は内定をもらう中、私達はまだ一つも決まらずに焦っていた。
今日こそは!と気合を入れて会場へ。
神様!どうか私に内定を下さい!

 

 

 

 

 

面接が終わり会場を後にする。
「ミホ~。どうよ?手応えは?」

「て言うかカオリ、気が付いた?あの社長さん。」
「ん?優しそうなおっちゃんやったな。」

「あの人、毎朝バスで見かけるゴミ拾ってくれてはるオジサンやで。」

「んーなアホな。
どこの社長がそんなんすんねんな。ソックリさんちゃうの?」

「本物やって!私こないだ公園でしゃべったもん!おじさんて呼んじゃったし、ジュース吹きかけたし!あぁーもぉー!まさかここの社長だったとは!頭真っ白なってしもた!絶対落とされるわ……」

「あぁあ、やらかしたな。ま、でもそんな変わりもんの社長さんやったらどうなるかわからんのちゃうかぁ?」

「変わりもんじゃないけど………。まぁ、次の会社頑張るわ………」

もう、絶望的……………

 

 

次の日曜日、今日は私も勇気を出して公園のゴミ拾いをしてみることにした。

焦る気持ちを抑える為と、何か違う角度から世の中を見ることが出来るかもしれないと思ったから。

 

少し歩いただけなのに、持って来た袋はすぐにパンパンになった。
----------思ったよりゴミって落ちてるのね。

 

「やぁ。就活生が拾活とはなかなかシャレてるねぇ」
「え?……あ、おじさ、すいません!社長様!」
「わはは、いいよおじさんで」
「お、おはようございます。おじ……さん。」

 

「君は面接何社目なんだい?」
「もう10社は受けました。」
「ほほう。なかなか大変そうだね。 そういえば、君はロビーに落ちていたゴミも拾ってくれたね。皆は気が付かないか、気付いてないふりだ。」

「あ、いえ、たまたま目に入ったっていうか。友人にはいい人のふりしたなって言われちゃいました。。。」

「気付いた事を行動に移すには勇気がいる。
ロビーのゴミも、今日の行動も。
他のみんなも気付いてはいても、自分には関係ない事だとか、面倒だとか、誰かがやるだとかって動こうとしないんだ。

【いい人のふり】でもいいじゃないか。ふりだって、一週間、一ヶ月、一年も続けたら立派な本物になるんだよ?
どれどれ、お、結構拾ってくれてるじゃないか
このゴミたちはラッキーだったね♪」

 

「ラッキー…………ですか?」


「あぁ。捨てられるゴミあれば拾われるゴミありだ」
「アハハ………私にもラッキー来ますかね?」
「大丈夫。君は今沢山の『運』を拾っているからね ♪」

 

 

───それからしばらくしてH社から封書が届いた。

 

捨てる神あれば拾う神あり


【内定通知】


私はおじさん、いや、社長に拾活してもらいました。